SNSが旅の計画に欠かせない存在になった今、ホテルや旅館の集客には公式サイトやOTA(楽天トラベル、じゃらん、Booking.com など)と合わせてSNSが重要なポイントとなっています。
特に、InstagramやX(旧Twitter)、TikTokを通じて宿を知り、そこから予約ページへと流入する導線が一般化しているため、「インフルエンサー活用」が避けて通れないテーマになりました。
この記事では、ホテルや旅館が「SNS経由で予約を獲得する仕組み」を確立するために知っておきたいインフルエンサー選びの注意点や、失敗を避けるコツ、そして実際の成功事例を紹介します。
インフルエンサー活用の出発点は「UGC」から
SNSにおける宿泊施設の集客で、最も効果を発揮するが UGC(User Generated Content=利用者が作るコンテンツ)です。華やかな公式サイトの写真ももちろん必要ですが、実際に泊まった人の率直な写真や動画には、それ以上の説得力があります。泊まった人の言葉や映像がリアルに伝わることで、「自分もここに行ってみたい」と感じる人が増え、自然に予約につながります。
その意味で、インフルエンサーは単なる広告塔ではなく「強力なUGCを生み出す存在」だといえます。
1. 投稿とターゲットの一致が何より重要
では、どんなインフルエンサーを起用すべきでしょうか。ここで大切なのは、フォロワー数ではなく「投稿内容とホテルのターゲットが一致しているか」です。
たとえば、ファミリー層を狙うのであれば「子連れ旅行の様子を普段から発信しているインフルエンサー」。愛犬同伴可能な施設であれば「愛犬との旅行記録が多いインフルエンサー」。カップルや女子旅を意識するなら「記念日ステイ」や「おしゃれな旅館体験」を発信している人が向いています。
こうした一致があるからこそ、フォロワーは投稿を「自分ごと」として捉え、「私も行ってみよう」と具体的な行動に移しやすくなります。
2. フォロワー数だけで判断するのは危険
インフルエンサー選びでよくある失敗は「フォロワー数が多いから効果があるだろう」という短絡的な判断です。
もちろん数は大切な指標ですが、それ以上に重要なのは「普段の投稿の親和性」です。
たとえば、普段は美容や日常ライフスタイルの発信をしている人にホテルの紹介を依頼した場合、フォロワーにとっては違和感があり、予約行動には結びつきにくい傾向があります。
逆に、旅行や宿泊施設を頻繁に紹介している人は、フォロワーが「次はどこを紹介してくれるのだろう」と期待しているため、自然に予約につながりやすいです。
フォロワー数よりも「フォロワーが何を期待してその人をフォローしているのか」を見極めることが成功につながります。
3. 宿泊施設とインフルエンサーの相性を見極める
さらに大切なのは、宿泊施設のタイプとインフルエンサーのスタイルが合っているかどうかです。
たとえばグランピング施設や自然派宿泊施設であれば、アウトドア投稿が多いインフルエンサーの発信は効果を発揮します。
一方で、愛犬家インフルエンサーは「ペットと一緒に泊まれる宿泊施設」との親和性が高く、熱心なフォロワーを呼び込む力を持っています。
しかし、高級ホテルとインフルエンサーの関係には、若干注意が必要です。高級ホテルを紹介するインフルエンサーのフォロワーは、必ずしも「次に自分が泊まる場所を探している」わけではなく、むしろ「華やかなライフスタイルを眺めて楽しんでいる」場合があります。ここを読み違えると「拡散はされたが予約は増えない」という失敗に直結します。
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4. キャンペーン系のインフルエンサー活用事例:オーシャンVilla藍水(千葉県鴨川市)
実際の事例をひとつ、ご紹介します。千葉県鴨川市の「オーシャンVilla藍水」は、プライベートプール付きヴィラが6棟の宿泊施設です。
閑散期にあたる6月に、X(旧Twitter)のインフルエンサーを活用してキャンペーンを展開しました。投稿を依頼したX(旧Twitter)のインフルエンサーは、宿泊施設のキャンペーン情報を頻繁に投稿しているタイプのインフルエンサーでした。
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具体的には「6月1日〜7月15日まで限定・20%OFF宿泊キャンペーン」を発信してもらったところ、結果は82件、金額にして約695万円の予約増加につながりました。
この事例の成功要因は、閑散期対策というホテル側の課題と、拡散力を持つインフルエンサーの発信スタイルがうまく噛み合った点にあります。「施設の事情」と「インフルエンサーの特性」をマッチングさせることこそで大きな成果を生みました。
コース料理の食事提供を行う高級旅館など原価率が高い業態の場合、価格訴求はしにくい点もあるかもしれません。ただ、何も手を打たず、閑散期の低稼働で赤字を出すよりも別シーズンにリピートしてもらう仕掛けを用意するというのも、マーケティング施策の一つではないでしょうか。
貸別荘スタイルなど、固定比や原価率が低い業態は、価格訴求も柔軟に取り組めると思いますので、ぜひ、参考にしてください。
さらに具体的な成功事例を知りたい方は、こちらの特集記事をご覧ください。
ここまで見てきたように、ホテルのインフルエンサー施策においては「UGCの力をどう引き出すか」「ターゲットと発信内容を一致させるか」が第一歩となります。フォロワー数に惑わされず、ホテルの魅力とインフルエンサーの世界観を丁寧に重ね合わせること。それが、SNS経由の予約増につながる最初のポイントです。
インフルエンサーの効果的な活用の仕方
ここまでは「UGCの力」と「ターゲット属性に合ったインフルエンサー選び」の重要性をお伝えしました。
今回はさらに踏み込み、以下3点について紹介します。
● フォロワー属性の見極め方
● メガインフルエンサーを起用する際の注意点
● ホテル側とインフルエンサー双方が成果を出せる投稿企画の工夫
1. 「フォロワー属性とインフルエンサーの生活圏の一致」が予約へ導く
たとえば、あるインフルエンサーに10万人のフォロワーがいたとしても、その大半が海外在住であれば、地方の温泉旅館にとってはほとんど意味をなしません。一方でフォロワー数が1万人でも、そのほとんどが関東圏に住む旅行好きの家族層であれば、首都圏近郊の宿泊施設にとって極めて価値の高い発信力を持つことになります。
意外と見落とされがちですが、インフルエンサーの生活圏は予約成果を大きく左右します。
例えば、埼玉県在住のインフルエンサーが「秩父の宿」に泊まって発信した場合、そのフォロワーの多くも埼玉や東京在住であるため「週末に行ける範囲」として具体的に検討しやすくなります。
実際に、埼玉のインフルエンサーを活用したある宿では「同県や隣接エリアからの予約」が顕著に増えたといいます。
同じように、栃木県在住のインフルエンサーが茨城県内の宿泊施設を紹介すると、フォロワーは「車で行ける距離」と感じ、すぐに行動に移しやすいのです。この事例でも栃木県からの予約がかなり増加しました。
他社の事例ですが、徳島県の観光キャンペーンに関する投稿では、隣接している兵庫県の方の保存率が高い結果だったと報告されているケースもありました。
「インフルエンサーの生活圏=フォロワーの生活圏」となるため、自然に来訪可能な顧客層が集まり、結果として予約増加につながるのです。
2. メガインフルエンサーに依頼する際の注意点
フォロワー数が数十万人を超えるトラベルインフルエンサーは、大きな影響力を持っていますが、自分のフォロワー層の興味や反応の傾向を熟知しているため、共感を得やすい宿泊プランや体験内容でなければ、そもそもPR案件として引き受けてくれないこともあります。
仮に引き受けてくれたとしても、高い費用をかけても「効果的な投稿」につながらない可能性があります。
そのため、ホテル側が「売れる宿泊プラン」や「独自の魅力(USP)」をきちんと用意していく必要があります。
魅力あるプランを設計できれば、メガインフルエンサーの拡散力は非常に強力な武器になるので、まずはある程度、販売実績がある宿泊プランをブラッシュアップするところから始めましょう。
3. 「先にUSPを磨く」ことが大前提
ここで大切なのは、インフルエンサーを探す前に「宿泊プランや施設のUSPを整理する」ことです。
● この宿の一番の強みは何か?
● SNSで短く伝えたときに「行ってみたい」と思わせられるか?
● 写真や動画で伝えやすいビジュアル要素はあるか?
これらが明確でない状態では、どんなに大物インフルエンサーに依頼しても、思ったような成果は得られません。
4. インフルエンサーと一緒に企画を作る
ホテル側ができる工夫のひとつは、「インフルエンサーにとって発信しやすい宿泊プラン」を一緒に設計することも一つです。
例えば、以下の要素はインフルエンサーにとって「投稿したくなる」内容になります。
● 季節限定の特典付き宿泊プラン
● 写真映えする客室や料理、アクティビティ
● 分かりやすい割引やプレゼントキャンペーン
ホテル側が一方的に「これを紹介してください」と押し付けるのではなく、彼らの視点を尊重しながら、拡散されやすい要素を取り込むことが成功のポイントです。
5. 成功事例に見る「拡散設計」
先に紹介した千葉県鴨川市の「オーシャンVilla藍水」の事例では、閑散期の弱点を補うために「6月〜7月15日まで限定・プライベートプール付きヴィラ20%OFF」というシンプルでわかりやすいキャンペーンを設計しました。
この「伝わりやすいUSPやキャンペーン的な要素」をインフルエンサーに発信してもらった結果、SNS経由での売上増加につながっています。
成功の背景には、価格訴求的な「拡散しやすいプラン」を意識的に用意したことがあります。インフルエンサーの力を最大限活かすには、まず宿自身が「発信されやすい素材」を整えることが成果を出す近道です。
今回のポイントは以下の4つです。ぜひ、インフルエンサー活用の際には参考にしてみてください。
● フォロワー数よりも「属性」と「生活圏の一致」が重要
● メガインフルエンサーは影響力があるが、拡散性の高いプランでなければ依頼自体が難しい
● 成功の前提は「宿側がUSPを磨くこと」
● 成果を出すには、インフルエンサーと一緒に拡散しやすいプランを設計すること
プラン磨きのコツとは
近年、多くのホテルや旅館がインフルエンサーを起用し、SNSでの拡散力を期待するようになっています。
しかし実際には「いいね数は増えたが予約に直結しない」「思ったほど成果が出なかった」という声も少なくありません。その原因はインフルエンサー側ではなく、宿泊プランや施設自体にある場合が多いのです。
もともと支持を得にくいプランは、どれだけ拡散しても予約に結びつきにくいのが現実です。
インフルエンサーは存在しない魅力を生み出すのではなく、既にある魅力を増幅する拡声器のような役割と考えましょう。
ホテルや旅館の販促担当者がまず取り組むべきは「どのプランを投稿してもらうか」を見直すことにつきます。
1. 投稿プランを見直す3つの視点
では、どのようにプランを見直せばよいのでしょうか。ポイントは大きく3つです。
―わかりやすさ
SNSは一瞬で判断される世界です。テキスト数行や画像1枚で「お得そう」「楽しそう」と直感的に伝わる内容でなければ、流れてしまいます。
「20%OFF」「カニ食べ放題」「プライベートプール付き」など、シンプルで理解しやすい要素が入っていると、フォロワーも「自分に関係ある」と思いやすくなります。
一方、「2泊3日で体験学習+複数のオプション付き」といった複雑なプランは、SNSの投稿だけでは魅力が伝わりにくく、かえって訴求力が落ちてしまいます。
― 写真映えする要素があるか
SNSの大部分は写真や動画から判断されます。そのため「どんな写真を撮れるか」が重要です。
● 客室から一望できるオーシャンビュー
● 星空の下で入る露天風呂
● 愛犬と遊べる芝生のドッグラン
こうした「一目で伝わる魅力的な光景」があるかどうかが、拡散力を左右します。逆に、写真で伝えにくい特徴しかないプランは、インフルエンサーにとっても発信しづらくなります。
―自分ごと化できるか
最後に欠かせないのが「フォロワーが自分ごととして想像できるか」です。
たとえば子連れ層向けであれば、プールやキッズスペースの写真があると「うちの子も楽しめそう」と具体的にイメージできます。愛犬家向けなら「ペットと一緒に過ごす写真」、女子旅向けなら「色鮮やかな食事や体験写真」が有効です。
フォロワーが「自分もそこに行ったら同じように楽しめる」と感じられる投稿が実際の予約に結びつきます。
ここまでの内容をまとめると、ホテルや旅館がインフルエンサー活用を検討する際には次のような順番を意識することが大切です。
● まず宿側が「SNSで拡散しやすいプラン」を企画する
● 写真や動画で伝わる素材を用意する
● フォロワーが自分ごと化できるかを確認する
そのうえでインフルエンサーに依頼するように心がけましょう。
2. インフルエンサー活用の前に必ずやるべきこと
次は「契約形態」「費用感」「投稿依頼のコツ」を解説します。ホテルや旅館の販促担当者が実際にインフルエンサーを起用するときに知っておきたい注意点を整理していきます。
契約・費用感・投稿依頼の実務ポイント
インフルエンサーとの契約形態は大きく3つに分けられます。
1. インフルエンサーとの契約形態
―ギフト型(宿泊招待のみ)
最も手軽なのは、宿泊や食事を無償提供し、その体験を投稿してもらう形式です。コストを抑えられる反面、人気インフルエンサーほど「宿泊提供だけ」では受けてくれないケースも多いのが実情です。また、成果の保証もなく、あくまで「体験を紹介してもらう」程度に考える必要があります。
―金銭報酬型(企業案件として依頼)
一定額の報酬を支払い、投稿内容・本数・使用媒体を事前に契約する方法です。効果を確実に得たい場合にはこの形式が適しています。契約上、投稿内容の確認や修正も可能となるため、ホテル側が伝えたいメッセージをきちんと盛り込むことができます。
―混合型(宿泊+報酬)
最近増えているのが、宿泊体験に加えて一定額の報酬を支払う「混合型」です。インフルエンサーにとっては宿泊のリアル感を体験しながら正当な対価も得られるため、双方にメリットがあります。
2. 投稿依頼のコツ
契約や費用を決めた後、実際に依頼するときにも工夫が必要です。ここを間違えると「せっかく起用したのに投稿が弱い」という結果になりかねません。
―投稿内容を細かく縛りすぎない
ホテル側が「必ずこの文章を使って」「この角度から写真を」と指定しすぎると、インフルエンサーらしさが失われ、フォロワーに響きにくくなります。依頼時は「絶対に伝えてほしい要素」を指定し、表現は本人に任せるのが理想です。
―必須情報リストを事前に渡す
宿泊プラン名・価格・期間・予約ページのリンク・指定ハッシュタグ(例:#温泉旅行 #ホテル名)を用意して渡しましょう。これだけで投稿の質が安定し、ホテルが伝えたい情報を確実に含めてもらえます。ハッシュタグで宿泊先を探すユーザーも増えているので、「業態名+エリア」で上位表示されると予約増につながる可能性があります。
―撮影導線をサポートする
「このスポットは写真映えしますよ」といった撮影ポイントをスタッフが案内すると、短い滞在時間でも効率よく素材を撮ってもらえます。インフルエンサーにとっては大きな助けになり、投稿クオリティの向上にもつながります。
3. 契約時に気をつけたいこと
最後に、契約の段階で見落とされがちな注意点を挙げます。
● 二次利用の可否:ホテル公式SNSやWebサイトにインフルエンサーの投稿を転載できるか
● 成果物の納品形式:動画のデータをもらえるのか、それともSNS上での公開のみか
● トラブル対応:投稿後に炎上リスクが発生した場合の対応ルールをどうするか
特に二次利用の権利は非常に重要です。インフルエンサーの投稿をホテル側の公式アカウントで再利用できれば、費用対効果をさらに高めることができます。
\インフルエンサー施策を“予約につながる形”で実行したい方へ/
まとめ
インフルエンサーを実際に起用する際のポイントは次の通りです。
● 契約形態は「ギフト型」「報酬型」「混合型」を理解して選ぶ
● 費用感はフォロワー数ではなく「属性の一致」で判断する
● 投稿依頼は細かく縛らず、必須情報リストと撮影サポートを整える
● 契約時には「二次利用の可否」を必ず確認する
インフルエンサー施策は、一度きりの拡散で終わらせるのではなく、公式サイトやSNSでの二次利用を含めて長期的に活用してこそ意味があります。
成功の鍵は「土台となるプランの設計」から「適切なインフルエンサー選び」「依頼方法の工夫」まで、一連の流れを整えることにあります。小さな宿泊施設でも、これらのポイントを意識することで、無理なく効果的な集客施策を実現できるでしょう。
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