10月25日、NHKで「国の観光戦略基本計画 オーバーツーリズム対策が柱の1つに」というニュースが流れました。
観光庁では、2026年度から始まる新しい観光立国推進基本計画(第5次)の策定が進んでいます。ただ、取り上げられている内容の多くは、すでに現場で繰り返し議論されてきたテーマでもあります。
課題が明確になっているからこそ、どう実行に移すかが問われる段階に来ていると感じます。
この記事では、日本が抱える今の観光課題とそれを解消する手立てになり得るDMC事業について紹介します。
国内の観光需要・労働力の減少にインバウンドは重要なテーマとなる
日本の人口減少と内需の縮小は、すでに現実のものになっています。外貨を得る手段としてのインバウンドは、今後も重要な柱の一つになるでしょう。
観光は、地域にお金を循環させる「産業」としての側面を持っていますが、その一方で、混雑やマナーの問題などから、観光業に関わらない人々の中に不満の声があることも事実です。
国としても、そうした温度差を感じ取りながら、バランスの取れた方針を模索しているように見えます。
労働人口の減少という意味でも、日本の人口減少は観光業に大きく影響を与えていると言え、外国人労働者や移民をどう受け入れるかは、将来的に避けて通れないテーマです。
観光の議論は、社会全体の構造変化とも深くつながっています。
観光分野で指摘されている主な課題
観光庁の有識者会議では、次のような課題が示されています。
| ・DMO(観光地域づくり法人)の資金・人材不足 ・オーバーツーリズムへの対応の遅れ ・地域住民の理解や協力の不足 ・観光需要の偏在(特定地域・時期への集中) ・自然・文化資源の保全と活用の両立 | 
実際に、京都北部にある伊根の舟屋を訪れてみて、オーバーツーリズムの現状と観光需要の偏在について感じたことがあります。
観光は、地域の理解と協力があってこそ成り立つものです。
しかし、現場では「観光の恩恵が地元に届いていない」と感じる人も少なくありません。
観光によって生まれる利益や価値を見える形で共有し、地域全体が納得できる仕組みを整えることが大切です。
交通の遅れが課題に
もう一つの課題が、交通や移動の問題です。
国際空港の混雑、地方の二次交通の不足、バスやタクシーのドライバー不足など、どれも深刻です。
地方空港の国際線を補助金で維持しているケースも多く、長期的な視点での見直しが必要とされています。
一方で、「地方直行便を増やすよりもハブ空港を強化すべき」という考え方もあり、効率性と地域分散の両立が課題になっています。
台湾で感じた“観光の双方向性”
2018年に台湾を訪れた際、現地の旅行代理店の方からこう言われたことがあります。
「日本人がもっと台湾に来てくれないと、いい関係を維持できません。不公平に感じます」と。
実際、2024年の訪日台湾人旅行者は604万人を超え、過去最高となりました。
一方、訪台日本人は132万人にとどまり、コロナ前(2019年)比で60%の回復にすぎません。この数字だけを見ても、バランスの偏りは明らかです。
航空路線の維持や業界間の連携を考えると、日本人のアウトバウンド回復も大切なテーマだと感じます。
インバウンドの受け入れと同じように日本人自身が外を知り、交流することが本当の意味での“観光立国”につながるのではないでしょうか。
二次交通を支える仕組みの整備
国交省では最近、宿泊施設や介護施設の送迎を「実費」で提供できるようにする規制緩和を行いました。
これにより、宿泊施設が地域交通を補完できる可能性が広がっています。
主なポイントは次のとおりです。
・ 保険料や車両借料、燃料費等を実費に含められる
・ 商店・観光スポットへの立ち寄り送迎を許可
・ ツアーやガイドに付随した送迎を認可
・ サービスの有無で料金差を設けることを許可
・ 地縁団体による会費制送迎も認められる
ライドシェアよりも即効性があり、観光と地域生活の両方に役立つ仕組みだと言えます。
宿泊施設が地域交通を支える動きは、今後さらに重要になっていくでしょう。
地方で黒字化できるDMCを目指して

私自身は、地方で「黒字運営できるDMC(Destination Management Company)」をつくることを目標にしています。
旅行会社のように手数料で成り立つ構造ではなく、独自の体験コンテンツを取り入れたツアーで利益を生み出す形です。
とはいえ、地方では語学人材の確保が難しく、ガイド体制の整備も簡単ではありません。
地域のスタッフをドライバーや運営サポートとして育て、都市部の通訳ガイドと連携することで、小さくても持続できる体制をつくりたいと考えています。
インバウンド客も取り込みたい、海外代理店へのアプローチ方法がわからないという方は、ぜひ弊社にお問い合わせください。
旅程を“ストーリー”として提案する重要性

海外の旅行代理店にとって、一つのエリアだけを売り込む提案は響きにくいと感じます。
2018年当時、弊社グループでは色々なインバウンド商談会に参加しました。
当時は京都・天橋立エリアだけでしか事業を行っておらず、特定のエリアの話だけをせざるを得なかったため、あまり相手にされませんでした。
DMCとしては、まずゴールデンルートを軸に整備し、日本全体を一つの“旅の物語”として提案できる形にしていくことが理想です。
現在は、オーストラリア、イスラエル、台湾、香港、中国、マレーシアなどの代理店からも問合せをいただいています。
大きな宣伝をしていなくても関心があるのは、地方体験や文化的価値へのニーズが確実に存在するからだと思います。
まとめ ― 観光は地域の鏡であり、未来の試金石
観光立国という言葉は、もはやスローガンではなく「地域の未来」を映す鏡のような存在です。
6000万人という目標を追うことよりも、観光を通して地域に何を残せるのかを丁寧に考えたい。
観光は経済を支えるだけでなく、人と人、地域と世界をつなぐ役割を持っています。
その原点を忘れずに、現場からできることを一つずつ積み重ねていきたいと思います。













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