河口湖のほとりに、築50年を超え、20年以上前に廃業していた宿泊施設がありました。湖畔まではほんの数メートル。窓いっぱいに河口湖が広がる、思わず車を停めたくなるような場所です。しかも売買はできず、賃貸のみという条件付きの物件でした。
弊社グループはこの建物を、約1億円をかけて「KOS HOTEL & RESTAURANT」として再生しました。この記事では、古いホテル・旅館の再生やリノベーションを検討している事業者の皆様に向けて、法規制の多い湖畔の建物をどう再生したのか、そして賃貸物件に1億円を投じるという判断をなぜしたのかをご紹介します。
建て替えた方が簡単。でも、それができない
この建物の最大の特徴は、立地の良さと引き換えに、多くの法規制を抱えていることでした。
河川法:建物の一部が湖側にかかっている
建物の一部は河川法の関係で河口湖側にかかっており、解体してしまうと同じ規模で建て直すことは極めて難しい状況でした。
自然公園法:第2種特別地域
さらにこのエリアは、自然公園法の第2種特別地域に指定されています。建ぺい率や離隔距離などに制限があり、新築や増築にもさまざまなルールがあります。
その結果、建て替えではなく、既存の建物を生かすリノベーションが前提となりました。
ホテル再生のリノベーションは、解体してからが本番
工事が始まり、内部をスケルトン状態まで解体すると、図面だけではわからなかったことが次々と見つかりました。
● 撤去できると思っていた柱が、建物を支える重要な構造材だった
● 追加で補強が必要な箇所が見つかった
● 基礎と柱の位置にずれがあり、一部は建物をジャッキアップしながら修正した
完成した施設を見てもわかりませんが、こうした「見えない工事」こそ、古い建物を安全に再生するために欠かせない部分です。新築なら設計図を基準に工事を進められますが、リノベーションでは建物そのものが答えを持っています。解体して初めてわかることも多く、そのつど設計士や施工会社と現場で判断しながら工事を進めました。
制約があるからこそ、工夫が生まれる


今回は用途変更を伴わなかったため、建築確認申請は不要でした。ただしその分、レイアウトを大胆に変えることはできません。既存の階段や構造を生かしながら、どうすれば客室やレストランをもっと快適にできるか。自由に壊せないからこそ、一つひとつの設計に工夫が求められました。
湖畔沿いにはBBQテラスも計画していましたが、河川法の制約で固定設備を設置することは難しい状況でした。そこで、置き式のパラソルやテーブルを使うスタイルに変更。結果として、季節や利用シーンに合わせて自由にレイアウトを変えられる、柔軟な空間になりました。敷地内のテントサウナも、同じ理由で固定式ではなく可動式を採用しています。
中古ホテルの再生は「どこまで工事できるか」の事前把握が重要

2025年の建築基準法の改正以降、大規模なリノベーションで建築確認申請が必要になるケースが増えています。確認済証が残っていない建物や、図面と現況が一致していない建物では、予定していた工事そのものができなくなることもあります。
「中古ホテルだから安い」だけで判断すると、後から法規制や構造の問題で計画が大きく変わることも少なくありません。購入や賃借の前に、次のような点を確認しておくことをおすすめします。
☐ 河川法、自然公園法、都市計画法など、どのような法規制がかかっているか
☐ 解体した場合、同じ規模で建て直せるか
☐ 確認済証や検査済証が残っているか
☐ 図面と現況が一致しているか
☐ 予定している工事に建築確認申請が必要になるか
☐ 構造の補強が必要になった場合の予算と工期の余裕があるか
ホテル再生の費用や設計の考え方は、「【ホテル再生事例】リノベーションで年商3倍を実現する方法|投資・補助金・設計戦略」でも解説しています。
ホテル単体で見れば、投資判断は難しい案件だった
改装費、厨房設備、家具、備品なども含めると、投資額は約1億円になりました。しかも物件は賃貸です。賃貸物件への大規模なリノベーションは銀行融資を受けにくいため、最初から自己資金で進める前提でした。この数字だけを見れば、投資をためらう案件だったと思います。
それでも投資を決めたのは、このホテルを一棟の事業としてではなく、河口湖エリア全体の拠点として考えたからです。
「泊まる場所」は増えても、「食事をする場所」は増えない

弊社グループは富士五湖エリアで複数のヴィラやグランピング施設を運営しています。施設が増える中で、以前から課題だったのが「食事を提供する場所」でした。
ヴィラや貸別荘は自由度が高く、多くのお客様に支持されています。ただ、旅行中は「今日はレストランでゆっくり食事をしたい」「朝食だけは外で食べたい」というニーズも少なくありません。地域には魅力的な飲食店がたくさんありますが、繁忙期は予約が取りにくかったり、営業時間が合わなかったりします。施設が増えるほど、この課題は大きくなります。
そこでKOSには、宿泊だけでなくレストランという役割を持たせました。宿泊施設を一つ増やすことが目的ではなく、エリア全体のサービスを充実させるための拠点です。レストランは宿泊しない方も利用でき、薪窯を使った料理と地元の食材を提供しています。グループのヴィラに泊まるお客様にとっても、食事の選択肢が広がりました。
ホテルは「泊まる場所」から「過ごす場所」へ

以前は、部屋がきれいで立地が良ければ選ばれる時代だったと思います。しかしこれからは、どんな食事が楽しめるのか、どんな景色の中で過ごせるのか、その土地ならではの体験があるのか、といった滞在全体の満足度が宿を選ぶ理由になります。
施設名の「KOS」は、ノルウェー語で「居心地の良さ」や「くつろぎの時間」を意味する言葉です。館内は和と北欧のデザインを組み合わせたジャパンディスタイルで、既存の梁や勾配天井もできる限り生かしました。この建物が積み重ねてきた時間も、空間の魅力に変えたいと考えたからです。約1,200㎡の敷地では、湖を目の前にしたテントサウナで、薪ストーブのセルフロウリュも楽しめます。
まとめ ― ホテル再生は、土地の魅力を次の世代につなぐ仕事
● 法規制で建て替えられない建物は、リノベーションで価値を引き出す
● 解体してから見つかる構造の問題に備え、予算と工期に余裕を持つ
● 中古物件は「どこまで工事できるか」を事前に把握することが重要
● ホテル単体では難しい投資も、エリア全体の拠点として考えると意味が変わる
● 宿は「泊まる場所」から「過ごす場所」へ。食事や体験まで含めて設計する
完成はゴールではなく、ようやくスタートラインです。景色に頼るのではなく、この場所で過ごす時間そのものを目的に訪れていただけるホテルを目指して、これからも磨いていきます。
弊社では、古いホテル・旅館の再生やリノベーション、エリア全体を見据えた宿泊事業の計画についてもご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。














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