「民泊規制」という言葉を目にする機会が増えました。新宿区では住宅地などで民泊営業を原則禁止する方針が示され、京都市でも規制強化の議論が進んでいます。大阪市では特区民泊の新規受付が終了しました。
民泊事業者からすれば「ここまで厳しくする必要があるのか」と感じるでしょう。一方で、近隣住民や行政からすると「もう個別の対応では追いつかない」という状況なのかもしれません。
弊社グループは京都市内でスタッフが常駐するホテルも運営しています。競争環境だけを見れば、民泊規制はホテルにとって追い風です。しかし、公表されている数字を追ってみると、話はそれほど単純ではありませんでした。この記事では、宿泊事業者・不動産投資家の皆様に向けて、新宿区の数字を手がかりに、民泊規制が強化されている背景と、これからの民泊・宿泊事業の考え方を整理します。
※本記事は2026年9月末時点で確認できる公表資料・報道をもとにしています。検討中の条例や制度は、今後内容や時期が変わる可能性があります。
新宿区の数字から見える、都市型民泊の実態

新宿区の住宅宿泊事業(民泊)は、2026年3月31日時点で累計届出件数5,370件。そのうち1,621件がすでに廃止され、現存する届出住宅は3,749施設と、全国で最も多くなっています。
内訳を見ると、新宿区の民泊がどのような事業になっているのかが見えてきます。
| 項目 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 法人による届出 | 3,040件 | 81.1% |
| 共同住宅 | 3,405件 | 90.8% |
| 賃借物件 | 2,847件 | 75.9% |
つまり新宿区の民泊の中心は、「自宅の空き部屋を旅行者に貸す」というホームステイ型ではなく、法人が共同住宅を借りて宿泊事業として運営するモデルです。この事業形態自体が悪いわけではありません。ただ、一般の住民が暮らす共同住宅の中で、日々違う宿泊者が出入りする施設が急速に増えれば、ホテルとは違う摩擦が起きやすくなるのも理解できます。
苦情は施設数の伸びを大きく上回っている

規制強化を考えるうえで重要なのが苦情件数です。新宿区の公表資料によると、2021年度から2025年度の4年間で、次のように変化しています。
● 届出住宅数:1,366施設 → 3,749施設(約2.7倍)
● 届出住宅への苦情:70件 → 924件(約13倍)
● 違法民泊への苦情:12件 → 410件(約34倍)
924件という数字は「924施設でトラブルが起きた」という意味ではなく、同じ施設への複数回の苦情も含まれている可能性があります。それでも、施設数の伸びと比べて苦情の伸びがかなり大きいことはわかります。主な苦情の内容は、ごみ、騒音、たばこ、標識の未設置、近隣住民への事前説明などです。
新宿区は民泊を放置していたわけではない
資料を読み込んでいて興味深かったのは、新宿区がこれまで相当細かな対策をしてきたことです。
80ページを超えるルールブックと多言語ポスター
新宿区には「新宿区住宅宿泊事業ルールブック」があり、近隣住民への事前説明、宿泊者の本人確認と名簿、管理業者への委託、ごみ処理、騒音防止、路上喫煙、火気、苦情対応、標識掲示、定期報告などが細かく定められています。事業者向けの外国語版や、宿泊者向けの多言語ポスターまで用意されています。
現地確認と廃止命令
届出住宅の現地確認(実査監視)は、2024年度に2,906件、2025年度に2,040件と、年間数千件規模で行われています。さらに、定期報告義務違反や業務停止命令違反を理由とした廃止命令も出されています。
つまり、「ルールを作り、指導し、処分する」という仕組みはすでにあったのです。それでも苦情は増え続けました。ここに今回の規制強化を考えるポイントがあります。民泊の経済効果は宿泊事業者や飲食店、清掃会社などに広く分散する一方で、苦情対応や現地確認、指導といった負担は行政に集中します。行政が「問題のある施設を一件ずつ追いかける方式では限界がある」と判断するのも理解できます。
「運営方法の規制」から「営業そのものの規制」へ

これまでの民泊政策は「民泊をするなら、このルールを守ってください」というものでした。新宿区でも、住居専用地域では平日の営業を制限するなどのルールがあります。
ところが新たに示された方針は、「この地域では、そもそも民泊の営業を認めない」という段階に踏み込んでいます。報道によると、新宿区は住居専用地域や文教地区などでの営業を原則禁止し、商業地域でも営業日数の上限を180日から120日に縮める方向です。2027年6月の施行を目指し、既存施設にも2年間の猶予期間を置いたうえで適用する見通しで、影響は約2,000施設に及ぶとされています。
いわゆる「ゼロ日規制」
背景には国の考え方の変化もあります。住宅宿泊事業法では営業日数の上限は年間180日ですが、観光庁などは、地域の生活環境を守る必要がある場合、自治体が条例で特定地域の営業を実質的に認めない制限を設けることも可能とする考えを示しました。これがいわゆる「ゼロ日規制」です。
新宿区だけが突然厳しくなったのではなく、都市部の民泊政策そのものが転換期に入ったと見る方が実態に近いでしょう。
それでも民泊需要は伸びている
ここから話が少し複雑になります。規制が強まる一方で、民泊の需要そのものは衰えていません。
● 全国の累計届出件数は67,932件、うち廃止は24,895件、現存する届出住宅は43,037件(2026年9月15日時点)
● 2026年6〜7月の延べ宿泊者数は約163万人泊で、前年同期比131.2%
● 宿泊者の42.5%が日本人で、外国人旅行者だけの宿泊手段ではない
民泊は、ホテルとは違う価格帯、大人数で泊まれる一棟貸し、キッチン付きの長期滞在など、若者やファミリー、グループ旅行の受け皿として一定の役割を果たしています。需要も社会的な役割もある。一方で、都市部では供給が増えすぎて住宅との摩擦が目立つようになった。この両面を見る必要があります。
宿泊事業者として考えたいこと
規制はホテルにとって単純な追い風ではない

常駐義務や営業制限が強まれば、競争環境だけを考えるとホテルには追い風です。ただ、宿泊業界は深刻な人手不足の中で、セルフチェックインやオンライン本人確認、スマートロック、遠隔接客など、省人化への投資を進めてきました。それが「人を置かなければ営業できない」という方向へ戻るのであれば、政策としての整合性は考える必要があります。
本当に必要なのは「人が常にいること」なのか、それとも「責任者にすぐ連絡がつき、本人確認ができ、苦情があれば短時間で現地対応でき、記録が残ること」なのか。ここには議論の余地があります。
真面目な事業者まで一律に規制すべきか
近隣への説明をし、ルールを守り、苦情にも対応してきた事業者からすれば、「同じ地域にあるから営業禁止」という規制に納得できないのは当然です。行政がこれまで相当な対応をしてきたことがわかる一方で、適法に運営してきた事業者まで一律に規制することが最適なのか、という論点も残ります。
「どこで、どんな民泊を運営するか」が問われる時代へ
これから都市部で民泊を始めるなら、需要があるかどうかだけでなく、用途地域、自治体の条例、営業日数、近隣との関係、管理体制、そして将来の条例変更まで事業計画に入れる必要があります。
一方で、全国の届出住宅も利用者数もまだ増えています。民泊が終わるのではなく、「どこで、どんな民泊を運営するのか」が問われる時代になったと考える方が近いでしょう。都市部の共同住宅型への規制が強まる一方で、地方の古民家や一棟貸し、ヴィラなど、別のタイプの宿泊施設へ需要が移っていく可能性もあります。民泊を投資として見たときのリスクは、「民泊投資のリスクとデメリット|規制強化後に確認したい4つの構造的リスク」で詳しく解説しています。
まとめ ― 都市型民泊は転換点にある
● 新宿区の民泊は、法人が共同住宅を借りて運営する事業型が中心
● 届出住宅は4年で約2.7倍、苦情は約13倍に増えた
● 行政はルールブック、現地確認、廃止命令まで対応してきたが、それでも苦情は増えた
● 規制は「運営方法」から「営業そのもの」へと踏み込み始めている
● 一方で民泊の需要は伸びており、日本人の利用も4割を超える
民泊規制は、単に「民泊が悪い」「ホテルが得をする」という話ではありません。需要があり、社会的な役割もある宿泊形態が、住宅との摩擦によって立地や運営の形を問い直されている、というのが実態です。
弊社では、ホテル・旅館・一棟貸しヴィラなど、さまざまな業態の宿泊施設の開発・運営に携わっています。民泊からの業態転換や、新たな宿泊事業の計画についてご検討の方は、お気軽にご相談ください。













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